フランチャイズ契約を作るうえで、いつも質問ある内容に、競業避止義務の条項があります。
経営ノウハウの流出が大きなリスクとなるフランチャイズ本部にとっては、非常に重要な条項だからです。
今回は過去の事例・判例を基に、競業避止義務の基本的な考え方について、解説していきたいと思います。
なお、フランチャイズ本部つくりや成功のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
競業避止義務の目的
競業避止義務は、企業のノウハウを不当な侵害から守るために絶対に必要な措置です。
加盟者が本部から習得したノウハウを、他ブランドで好き勝手に活用することはできません。
ですから正社員が退職して独立する際にも制限がかけられます。
競業避止義務の目的は、本部のノウハウを守る以外にも、個人情報や秘匿性の高い情報の漏洩を未然に防ぐ目的もあります。
ノウハウの流出は秘匿情報の流出であり、秘匿情報には顧客情報などの個人情報も含まれることがあるからです。
企業活動のコンプライアンスやガバナンスの観点からも競業避止義務が必要とされます。
これらの2つの側面から、競業避止義務の条項はとても重要なのですが、一方で行き過ぎた制限は認められません。
なぜなら「職業選択の自由」は憲法で守られるからであり、過度な制限で定められた条項は無効となってしまうので、「適切な制限」をかけることが必要です。
調剤薬局フランチャイズの事例
先日、調剤薬局フランチャイズの元加盟店に対する、競業避止義務における訴訟の東京地裁判決が下りました。
内容は、フランチャイズ契約終了後に継続して調剤薬局を異なる看板で営業をした元加盟店に対する、本部からの損害賠償請求訴訟です。
今回の判決では、本部の主張する店舗の閉店と違約金は認められないという内容でした。
本部側の主張を退け、元加盟店側の勝訴となりました。
この判決に関して詳しく知りたい方は、こちらのニュース記事をご覧ください。
ここでのポイントは2点です
①競業避止義務条項ではフランチャイズ契約終了後2年間の同敷地内での同業の営業を禁じている
②提供するノウハウが流出することで影響を及ぼす範囲について
①のフランチャイズ契約終了後の2年間の同敷地内で同業の営業を禁ずる条項は、過去の判例からも概ね認められている内容です。
3年や5年の制限を設けたフランチャイズ契約書も見受けられますが、概ね2年程度が、制限の上限と考えられています。
しかし今回、本部側の主張が退けられた要因は、②の提供するノウハウの質にあったのです。
この本部が提供してきたノウハウが、元加盟店の営業を制限する程のレベルで無かったと判断されたわけです。
本部の責任も問われた判決
今回の判決はフランチャイズ本部にとっては厳しい判決でした。
本部が提供しているノウハウ(フランチャイズ・システム)が、加盟店の競業避止義務を課すに当たらないレベルのものであったと解釈されたわけです。
ここでのポイントは4点です。
①門前薬局であり、医院との距離が店舗営業に最も大きい影響を及ぼすこと
②本部の提供ノウハウは、顧客獲得に果たす役割は限定的であったこと
③契約終了後のノウハウ流出を防止するほどの「非行知性」「有用性」を要していないこと
④本部の新規出店もなく、競業避止義務などを課す必要のある商圏の成立はないこと
※「非行知性」・・・・公然と知られていないこと
※「有用性」・・・・・事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること
本部にとって非常に厳しい結果ですが、これだけの理由を並べられると、本部も認めざるを得ないと言えるでしょう。
フランチャイズシステムとしての事業再構築を迫られるレベルと言えます。
この判決が示すフランチャイズ本部の在り方
様々な業種・業態がフランチャイズシステムを構築しています。
コロナ禍においてもフランチャイズ本部立ち上げの機運は旺盛です。
逆に高まっているかのようにも感じます。
それだけに今回の判決は、フランチャイズ本部各社に課題が投げつけられたと考えるべきでしょう。
本部が提供するノウハウに、加盟金やロイヤリティを徴収する価値が本当にあるのか。
顧客獲得の活動は継続して実施できるのか。
提供ノウハウに他者と差別化できる「非行知性」「有用性」はあるのか。
新規出店をするマーケットや商圏、消費者ニーズがあるのか
これらを真剣に考える必要性に迫られています。
加盟して自社の看板を掲げればノウハウ提供は終了ではないのです。
マーケットが変われば提供するノウハウがアップデートされ、加盟店指導し続けなければノウハウの価値は消失することを意味しています。
そのためにはやはりS V機能の充実が欠かせません。
一方で元加盟者側も、フランチャイズ契約書には契約終了後2年間は同敷地内で薬局などを営んではならないとの条項について、「契約時にこれらの条項には気づかなかった」と主張していました。
この点は逆に驚きです。
フランチャイズ契約書を読み込まずに契約を締結していたのかと思うと、元加盟者側の主張にも疑問符がつきます。
これは裁判における方言かもしれませんが、元加盟者側の認識の甘さも指摘せざるを得ません。そこを促す本部でもあって欲しいものです。
まとめ
近年のフランチャイズ契約における行政・司法の判断や解釈は加盟者側に寄り添う傾向にあります。
資本格差や情報格差を是正し、「個」の自由を尊重する世論が影響していると言えます。
特に本部が提供するノウハウの希薄さは、今後はフランチャイズビジネスにおいて致命的な課題となってくると言わざるを得ません。
フランチャイズ本部は、今回の判例も踏まえ、提供ノウハウの充実度や、地域や競業避止の期間が適切であるか、点検が必要ではないでしょうか。