多店舗展開には様々な課題が生まれてきます。とりわけ、フランチャイズ展開については難しさが増してきます。このフランチャイズ展開における重要な研究がアメリカの大学で実施されており、その内容からもSVの存在がいかに重要であるかが読み取れます。
多店舗展開する企業の組織学習の活性化が競争力を高めているかについて、フランチャイズチェーンの研究を中心に進められている。4つの代表的な研究を見てみよう。
第1に、地方の店舗が、フランチャイズ企業のビジネスの仕組み、専門的にいうと「テンプレート」を正確に模倣すると業績がよいのかについてだ。米ペンシルベニア大学のシドニー・ウィンター教授らは、地方店舗がフランチャイズ本社のテンプレートを正確に模倣すれば、成果が出やすいとする。
ただ、米バンダービルト経営大学院のメーガン・ローレンス助教は、フォーチューン誌の選ぶ10の小売りチェーンを分析して、本社のテンプレートをきちんとコピーするだけではなく、店舗それぞれの自己経験も活用する方が成果を上げやすいとする。また当然だが、フランチャイズ本社の持つテンプレートが強い競争力を持っていると店舗側に認識されないと、知識移転は進まない。
第2に、地方の店舗がテンプレートを応用して、それぞれの現地市場に対応するローカル化を進めると、チェーンの競争力の発展につながりやすい点だ。レバノン・アメリカン大学のジャメイ・マーロフ助教らは、北米248のフランチャイズチェーンの分析を行い、店舗が現地市場対応を進めると、チェーンの能力発展につながるとする。ただローレンス氏は、店舗が本社のテンプレートと異なる独自事業を展開するのは、あまり成功しないという。
第3に、本社が、地方店舗に対し業績評価についてきちんとフィードバックして、その活動を管理することには一定の効果があるという点だ。米ボストンカレッジのメッティン・センガル准教授らは、業績評価を行い店舗マネジャーに対して成果報酬を与えることや、現地の投資の裁量を与えることは、一定の業績向上への効果があるとする。チェーンの中で、本社と地方店舗の間で投資に関する内部のガバナンス(統治)があった方がよいようだ。
第4に、チェーンで多店舗展開するには、本社と地方店舗の間や、店舗の間での経営のノウハウや能力の移転を進める仕組みを、高度化することが重要だ。
~中略~
このように、本社からのビジネスの仕組み、ノウハウ、能力について地方店舗に移転を進めるマネジャーと、地方店舗のマネジャーの双方のやる気を高め、移転を行う上で教育したり、学習したりする能力を高める工夫が必要となる。
また、知識移転を進めるために、ウェブ会議などの映像を用いる組織メディアを取り入れたコミュニケーションの仕組みも高度化する必要があるだろう。特に、高度なオンライン動画メディアは、本社と地方店舗、店舗間で、現場と密接な関係を持つ暗黙知の共有に効果的である。
2021/04/13 日本経済新聞 電子版 多店舗展開、知識移転が重要
この記事で最も重要な点は「知識移転」です。知識移転とは、フランチャイズ本部の持つビジネスの考え方、ノウハウ、販売方法など、仕組み化・形式化・マニュアル化し、そのテンプレートを確実に移植する事の重要性を説いています。
勿論、本部の提供するビジネスモデルが、他の競争相手と比べても高度化していることが前提であることは言うまでもありません。その高度化されたビジネスモデル(テンプレート)の知識を、高度なレベルで加盟店へ移転する事の重要性、難しさを説いているのです。
この「知識移転」の手法は業種・業態や企業文化によっても異なってくるでしょう。
しかし、本部と加盟店の橋渡しとなるスーパーバイザー(SV)の機能が高度に働くことが重要である点は、フランチャイズビジネスにとっては共通の要素ではないでしょうか。
製品やサービスを進化させていくのは、どの企業も当然に実施することです。それを多店舗展開(フランチャイズ展開)して規模の経済を享受するためには、積み重なった経験や知識を伝える「知識移転」の手法も常に磨いていくことが必要であり、現場・店舗・加盟店が常に学習し続けることを止めてはいけないと言うことです。
フランチャイズの加盟店は其々に意思の持ったオーナーです。放置すると直ぐに方向性を誤るものです。それをグリップし、常に同じベクトルに向かせるためにスーパーバイザーが存在します。フランチャイズシステムは、マニュアルを横展開するだけで店舗数が拡大するものではありません。「高度な知識移転」とは奥の深い取り組みであること、その為には高度なSVシステムが必要であることを示唆していると思います。
なお、フランチャイズ展開の成功を左右するSVの役割について詳しく知りたい方は、こちらのコラムもあわせてご覧ください。