「加盟者とは盤石な信頼関係を築いて事業展開をしていきたいと考えています。そのためには、どのような点に注意すべきでしょうか。」
これは、先日弊社にフランチャイズ本部立ち上げについてご相談に訪れた学習塾チェーンを営む経営者からのご相談です。
フランチャイズシステムは、店舗ビジネスの事業発展を加速させる有効なツールです。
しかし一方で、様々な考えを持つ経営者が一つの組織に集まるフランチャイズシステムでは、フランチャイズ本部と加盟者の間にトラブルが生じることも少なくありません。
これからフランチャイズ展開を開始するのであれば、トラブルの発生は未然に防止したいところでしょう。
トラブルの発生を防止するためのポイントは様々ありますが、その中でも重要なポイントの1つが、しっかりとしたスーパーバイザー(以下SV)システムを構築することです。
そこで、本記事ではフランチャイズシステムにおけるSVが果たすべき役割や求められる資質を解説したいと思います。
なお、フランチャイズ本部構築の進め方や成功のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
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1.フランチャイズ本部のSVが果たす役割
店舗ビジネスにおけるSVは、複数店舗を統括管理し、業績を最大化させる「エリアマネージャー」の意味合いで用いられることもありますが、フランチャイズシステムにおけるSVは、より広い範囲の役割を果たすことが期待されています。
具体的には以下の3つの役割があげられます。
①加盟店利益の最大化
フランチャイズシステムとは、フランチャイズ本部と加盟店で利益を分配する仕組みです。
加盟店に利益が上がっていなければ、フランチャイズシステムは成り立ちません。
そこで、フランチャイズ本部は、仮説・実践・検証サイクルを通じて、加盟店の業績拡大をサポートしていきます。これを担当するのがSVであり、加盟店利益を最大化せることがSV業務の根幹となります。
②フランチャイズ本部と加盟者間の信頼関係構築
フランチャイズシステムにおいて、フランチャイズ本部と加盟者をつなぐ接点はSV以外ありません。
そのため、SVはフランチャイズ本部と加盟店の間に立ち、必要に応じて本部の各部門とも連携しながら、双方の考えや意見、想い等のバランスをとることで、本部と加盟店との信頼関係を築き上げていくことが求められます。
③フランチャイズ本部の方針に基づいた加盟店の統制
加盟者はあくまでフランチャイズチェーンの一員として営業します。
仮に、同じブランド名であるにもかかわらず取扱商品やサービスが異なれば顧客は混乱してしまいます。
そこでSVは、加盟者にフランチャイズ本部が定めたルールに従って店舗を経営するよう加盟店の行動を統制します。
とはいえ、「フランチャイズ契約書に×××と書いてあるので守ってください」などの伝え方では、加盟店はまず間違いなく反発します。
ですから、SVは加盟店との信頼関係を損ねないよう、加盟店の心情を配慮しつつも、結果的には本部のルール通りに加盟店を統制することが求められます。
SVの役割の中でも最も難易度の高いものといえるでしょう。
2.フランチャイズSVに求められる資質とスキル
SVの役割がフランチャイズチェーンにとっていかに重要であるかがお分りいただけたのではないかと思います。
続いて、SVの役割を果たすためにSVに求められる資質とスキルを確認していきましょう。
なお、SVの教育方法やSV制度の運用のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
SVに求められる資質としては次の6点があります。
①営業力・営業センス
ここでいう営業力・営業センスとは、売上を上げるための総合的な商売センスです。
商売が好きで、肌感覚で商売感が働くセンスが求められます。
加盟店の経営者には、根っからの商売人もいれば、脱サラの人もいます。
それぞれ経験値は異なりますが、経営者である以上、商売人であることに違いはありません。
SVは、商売人を相手に信頼関係を築いていかなければなりません。
そのためには、商売人のニーズにこたえるための営業力・営業センスが不可欠です。
②コンサルティング力
コンサルティング力というと、フランチャイズ事業や経営についての専門的知識や分析力、提案力をイメージするかもしれません。
もちろんそれらも必要ですが、SVに求められるコンサルティング力には、より広い要素が含まれます。
例えば、加盟者との信頼関係を早期に築く人間力です。
SVは、加盟者のその時々の心理を読み解くために聞き上手となり、そのうえで正面から向き合った対話ができなければなりません。
また、何事も即時対応できることで加盟者の信頼を勝ち取れる姿勢も必要です。
続いて、強いストレス耐性も求められます。
フランチャイズ本部と加盟店は、利益相反関係の側面もあります。
その中でも、加盟店と正面から向き合い、時には厳しいことをいいつつも、互いの信頼関係を高いレベルで維持させることが求められるのです。
加盟店の信頼を得るためには、SVとしての自信も重要です。
SV自身の実体験や学んだ知識、SVとして蓄積してきたノウハウを自分の指導の糧として、数多の引き出しを持ち合わせていることがSVとしての幹を強固にします。
これらに裏打ちされた「SVの言い切る言葉」が加盟者の心に刺さり、加盟者の行動へつながります。
③現場力・率先垂範力
現場経験はSVの礎です。現場の実体験がなければ説得力を持ちません。また、実体験がなければ本気で語れません。
もちろん、SVがいつもオペレーションに入る必要はありません。
しかし、いざというときにはやって見せる現場力・率先垂範力があることが、SVの説得力を高めるのです。
また、加盟店のオペレーション力向上のためには店舗スタッフの育成が必要ですが、同時にスタッフをまとめあげる店長も一人前の商売人として育てなければなりません。
特に加盟まもない加盟者は不安も多いため、SVへの期待は大きいでしょう。
④仮説・実行・検証力
商売には「仮説」「実行」「検証」の繰り返しが不可欠です。
SVは、加盟店が「仮説」「実行」「検証」を繰り返し、業績を日々改善していくサポートをしなければなりません。
始めに仮説です。
様々な情報と経験値、他店や他業態の成功事例から仮説を立てます。
仮説を立てる能力はどの仕事でも必要なスキルです。
仮説の精度を高める方法は仮説を繰り返すしかありません。
商圏・自店・競合・マーケット・販売実績などの分析力も必要となります。
次に実行です。
立てた仮説を信じて実行に移します。仮説通りに実行できなければ仮説に立ち戻りです。
SVが提案し加盟者と共に立てた仮説通りに実行されたか、常に確認が必要です。
SVとの対話では話が盛り上がり、前向きな仮説を立てていても、一人になって考え直してみると、消極的になり実行に移せないことも発生するものです。
最後に検証です。
仮説と実績の乖離を検証します。
仮説のどこが間違っていたのか、仮説は間違っていなかったがオペレーションが追いつかなかったのか、突発的な事象が発生したのか、そこは想定できなかったのか、様々な角度から検証し、次の仮説へと繋げていきます。
⑤コミュニケーション力
SVのコミュニケーションは、加盟店と本部を代表したコミュニケーションです。
双方の意思の疎通を円滑にする重要な役割となります。
本部と加盟者の信頼関係を構築するためには、加盟店の立場に立ち、加盟店オーナーや店長のことをよく知り、理解する。そして相手の本音を引き出すコミュニケーション力が欠かせません。
なお、ここでいうコミュニケーション力とは、加盟者との対話だけをさすものではありません。
「常にあなたのお店を見ています」ということを姿勢で見せるのもSVの大事なコミュニケーションの一つです。
たとえば、休みの日に私服で立ち寄る、朝の訪問に続き同日の夜にも立ち寄る、些細なことでもこまめに連絡するなど、ちょっとした行動一つでも加盟店との信頼関係構築につながっていくのです。
⑥カウンセリング力
時には加盟店オーナーや店長のメンタルケアも必要です。
理屈としては必要性が理解できていたとしても、感情がついてこなければ人は行動に移さないからです。
そのため、SVは加盟店の感情をしっかりと受け止めて、加盟店オーナーや店長のメンタル面もサポートしていくことも求められます。
このためには、SVは常に加盟店オーナーや店長の感情を観察しておく必要があるでしょう。
加盟者が商売や人生観で大事にしているところは何か、逆に苦手としている点やN Gワード、今の悩み事や不安事等には、常にアンテナを張っておかなければならないのです。
まとめ
以上、フランチャイズシステムにおけるSVの役割や求められる資質をご紹介しました。
SVには非常に多くの資質やスキルが求められます。これをはじめから完璧に身につけている人材など存在しないでしょう。
だからこそ、社内でレベルの高いSVを育成できるかどうかは、SV制度として適切に運用できるかどうかは、そのままフランチャイズ本部の競争力に直結することになります。
フランチャイズ展開で成功を目指すのであれば、SV教育や制度運用は手間とコストをかけて、しっかりと取り組んでいかなければなりません。
なお、SVの教育方法やSV制度の運用のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。