「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービス社が、「ペッパーランチ」事業を売却する方針を固めたようです。
ここ数年、同社は外食業界において飛ぶ鳥を落とす勢いで展開を続け、常に話題の中心となる存在でしたが、2019年以降は既存店の業績が急速に悪化していたようです。
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、急成長から一転、これからは会社の存続をかけて事業再建に取り組んでいくのでしょう。
同社の動向は、今後の外食業界におけるチェーン展開やフランチャイズシステムのあり方を考える一つのきっかけとなるのではないでしょうか。
当社では、今後外食業界において多店舗展開をするにあたり、以下に留意する必要があるものと考えています。
(1)店舗拡大に伴う競争力低下のリスク
経済が成熟化し、消費者の嗜好は多様化しています。
この成熟経済化においては、店舗数が一定数を超えると、飲食店としての競争力が低下するリスクがあります。
そのように考える理由としては以下が挙げられます。
①消費者がチェーン店を避ける風潮の広がり
第一に、経済が成熟化し、顧客の嗜好が多様化する現代では、用途に応じて、その用途に最適化された個性ある店舗が選択される傾向が強まっています。
例えば、一消費者のお酒を飲む需要といっても、
- 一人で飲むのか、
- 仲間と飲むのか、
- 交際相手と飲むのか、
- 家族で飲むのか、
- 取引先と飲むのか、
といったように様々な用途があり、消費者はそれぞれの用途に最適な店舗を選ぶようになっているのです。
十数年前までは、上記のような多様な需要に薄く広く対応できる総合居酒屋が選ばれていたわけですが、現在、総合居酒屋がかつての輝きを失っているのは周知の事実といえるでしょう。
この動向を踏まえ、最近増えているのが個性をウリにしたチェーン店です。
「いきなり!ステーキ」もこの部類に入るでしょう。
ただし、ここにも落とし穴があるように感じられます。
それは、一定の規模を超えると、ウリであった個性が薄まり、逆にチェーン店感が強くなって、結果競争力が低下するということです。
ここ最近の動向をみていると、最適規模を超えてチェーン店感が強くなりすぎた店舗は、消費者に選ばれにくくなっているように感じます。
問題は、“個性をウリにできる規模”、すなわち“チェーン店感が強くなりすぎない規模”がどの程度なのか、ということです。
弊社の経験則では、そのラインが100~200店舗にあるように考えています。
もちろん例外もありますし、業種業態によって規模の程度も変わってくるのですが、ここ最近増えている料理の専門性を打ち出した業態は、やはり100~200店舗程度が、消費者視点から見た“魅力ある個性”を維持できる限界ラインのように感じます。
ここ数年、絶好調であったいきなり!ステーキの既存店売上の苦戦がはじまったのも、同ブランド間での競合に加え、チェーンイメージの浸透による“魅力ある個性”の喪失があるのではないでしょうか。
上記の傾向を裏付けるように、最近では「ステルスFC」という新しいフランチャイズのあり方が注目されています。
ステルスFCとは、屋号を統一しないフランチャイズシステムの総称で、消費者からは個性的な飲食店のように見えて、実態はフランチャイズチェーンというモデルです。
この代表例が、横浜家系ラーメン店「町田商店」を展開する株式会社ギフトのプロデュース店です。
同社のステルスFCシステムは、屋号や内装等を加盟オーナーが自由に決め、メニューについても一定程度はオーナーの裁量で決めることができる点に特徴があります。
“個人店の魅力”を保ちつつ、チェーンとしての効率性も実現するいいとこ取りのシステムといえます。
なお、ステルスFCの特徴や活用時の留意点について詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
チェーン店が避けられる傾向にある中、いかにしてチェーン店感を出さずに店舗展開を進めていくのか。
今後の外食企業が店舗展開を進める際の一つのポイントになるのではないでしょうか。
②人手不足問題の深刻化に伴う運営難易度の向上
近年、飲食業界を問わず人手不足問題が深刻化しています。
業種をまたいで人材獲得競争が繰り広げられる中、
- 昇給昇格に限界がある、
- 労働時間が長時間化しやすい、
- 夜間の勤務がある、
- 肉体労働の側面が強い、
等、働き手にとってマイナスとなる要素が多い飲食業界では、その問題はより一層深刻です。
人材確保が難しい状況の中、展開している店舗の運営品質を維持することは、従来にも増して難しくなっています。
特に、フランチャイズシステムを採用している場合、その傾向が顕著です。
フランチャイズの場合、当該事業に経験のない方が経営者となることが多いのですから、ある意味当然のこととも言えます。
接客などの運営品質が良いことをウリとして急成長を遂げた企業が、店舗展開の進展とともにその強みを喪失していったケースは、過去にも多く発生しています。
多くの企業は、運営方法を標準化して一定品質を担保しようとしますが、このことが前述のチェーンイメージの浸透を加速させ、結果としてその業態の競争力を低下させることもあります。
このような時代背景を考えると、特に運営品質の高さに強みがある企業であれば、どの規模まで自社の強みを発揮することができるのか、よくよく検討した上で店舗展開方針を決めなければ、長期的な競争優位性を維持することはできないでしょう。
前に紹介した“チェーン店感”とも重なりますが、自社にとっての最適規模を意識することが求められる時代なのではないでしょうか。
(2)飲食業界におけるこれからのフランチャイズ展開のあり方
そもそも、フランチャイズシステムとは、短期間で100、500、1,000店超といった多店舗展開を実現することで、一定のシェアを獲得し、ブランド浸透、規模の経済の実現等といったメリットを得るために導入されたシステムです。
目標は1,000店舗超、最低でも100店舗は展開することを前提として発展してきた歴史があります。
そのため、フランチャイズシステムを構築するというと、情報システムの整備、物流体制の構築など、幅広い対応が必要となり、結果として、フランチャイズシステムを整備するのに数千万円のコストが生じることが当たり前と考えられていました。
ところが、現代の外食業界では単一業態で100店舗を超えられればたいしたもので、1,000店舗を超えるような新興チェーンはここしばらく生まれていません。
成長経済時代は店舗数を拡大することが1店舗当たりの売上向上にもつながる時代でしたが、現代は いきなり!ステーキ の事例でもわかるとおり、店舗数が増えたからといって、1店舗当たりの売上高が増加するわけではなく、むしろ低下する傾向にある時代といえます。
現代は、昔と比べて100、500、1,000店舗超といった多店舗展開を実現することが難しい時代になったといえるでしょう。
このように考えると、従来型のフランチャイズシステムのように、立ち上げ段階から100店舗超を想定してシステム作りに投資をすることは、時代の流れに逆行する、きわめてリスクの高い行為といえます。
これからフランチャイズ展開をはじめるのであれば、
- 最低限必要な仕組みから整備をはじめることで初期投資をできる限り節約する
- 店舗展開の進展と並行して段階的に投資をしていく
- 自社にとっての最適規模での展開を目指す
ことが適切な考え方といえるのではないでしょうか。
なお、現代の経営環境を踏まえたフランチャイズ展開のあり方について詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
まとめ
外食業界は、他のどの業種業界よりも時代変化が速い業界といっても過言ではありません。
今後、外食業界において事業を継続・発展させていくためには、外部環境の変化にアンテナを張り、そこから何が読み取れるのかを自分なりに考え、経営方針に反映させていくことが不可欠といえるでしょう。
また、この外食業界の動向は、いずれ他の業界にもおとずれることでしょう。
時代の流れを先読みし、時代にあった店舗展開のあり方を模索することが大切です。
なお、フランチャイズ本部構築の進め方や成功のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。