ここ最近のフランチャイズ業界の動向を見ていると、数年前のフランチャイズ展開のあり方とは明らかに異なるモデルが多く見られるようになっています。
時の流れとともにフランチャイズ本部を取り巻く環境が変わり、フランチャイズ展開のあり方も変化しています。これからフランチャイズ展開を開始するのであれば、この変化は事前に知っておきたいところです。
そこで、最近のフランチャイズ本部の動向を踏まえ、これからのフランチャイズ展開のあり方を考察してみたいと思います。
従来のフランチャイズ展開のあり方
日本におけるフランチャイズ展開は、1963年にダスキンと不二家がフランチャイズシステムを導入したことがはじまりといわれています。
その後、多くの企業がフランチャイズシステムの導入を進めてきましたが、その主たる目的は「他人資本を活用することで、店舗展開の速度を飛躍的に高めること」にありました。
具体的には、加盟者の資金や人的資源を活用することで、本部の店舗展開の負担を減らし、直営店による展開では実現できないスピードで店舗数の拡大を実現する、というものです。
日本経済が成長し、店舗を出せばほぼ確実に一定の売上が上がる時代においては、スピーディーな店舗展開を重視するフランチャイズのあり方は時代にマッチし、多くの企業がフランチャイズシステムを活用して急速な事業拡大に成功しました
このようにして、フランチャイズシステムは日本国内において根付いていくこととなったのです。
時代の流れとともに変化するフランチャイズ展開のあり方
しかし、2000年代に入り、フランチャイズの前提条件が変化していくことになりました。
具体的には、「店舗を増やすこと」が「事業拡大」に直結しなくなってきたのです。
日本経済は成熟化し、消費者の嗜好は多様化しました。また、経済成長が鈍化する中、企業間の顧客獲得競争も激しさを増しています。
これらの結果、「スピーディーに店舗展開したとしても、一定規模を超えると、1店舗当たりの売上が減少する」というこれまでにない事象が生じるようになりました。
最近では、急速な店舗展開を実現したのち、一転して業績不振に苦しむ企業も目につくようになりましたが、このようなケースが発生するのも、上記のことが要因といえるでしょう。
今の時代、店舗展開の速度を飛躍的に高めることを目的としたフランチャイズ展開のあり方は、時代に合わなくなってきているのです。
それでは、これからのフランチャイズ展開のあり方はどうあるべきなのでしょうか。
この点、弊社では「自社の経営基盤を強化するために、フランチャイズシステムを活用する」というものになるのではないかと考えます。
主たる目的を「店舗展開」に置くのではなく、「経営基盤の強化」に置くのです。
>令和時代のフランチャイズ展開のあり方を詳しく知りたい方はこちら
ここで、フランチャイズ展開の目的を「経営基盤の強化」に置いているとみられる2つの事例をご紹介します。
事例①バイクカスタム店の事例
バイクのカスタムやオリジナルコンプリートマシンの制作、メンテナンスを手掛けるサンクチュアリーの事例です。
製作窓口にもなり、後のメンテナンスにも安心感がある
2021年現在、本店のほかに5店舗のフランチャイズ店を持つ、サンクチュアリーグループ。各店舗ともコンプリートカスタム・RCM(Real Complete Machine)の製作やメンテナンスに対応し、もちろん一般的なカスタムも行う。その中で、RCMのメンテナンスについては製作したグループ店舗に関わらず、どの店舗でも行えるようになっている。
それは、各店舗の代表者がいずれも本店で長くRCM製作ほかの作業に携わり、車両製作の意味を理解していること、またその経験値も十分持っているからだ。ユーザーにとっては製作店から離れた場所でも、近くにサンクチュアリーのフランチャイズショップがあれば安心という要素にもなる。
出典
2021/04/12 carview! ACサンクチュアリーZ1-R(カワサキZ1-R)フランチャイズ展開の利点も活用してフルオーダーメイド
同社では、会社で長く働き、高度な技術や知識を習得した者をフランチャイズ加盟オーナーとすること、すなわちのれん分け制度の活用により、職人技が求められる当該事業において、フランチャイズ店を5店舗展開しています。
>のれん分け制度の詳細について詳しく知りたい方はこちら
高度な技術や知識が求められるだけに、人的資源の問題からスピーディーに多店舗展開を進めることは難しい事業です。
そこで、同社は、高度な技術や知識を習得した従業員に支店経営を任せる形でフランチャイズ展開を進めているのです。
直営方式ではなく、フランチャイズ方式を採用している理由は記載されていませんが、
・加盟者の資本を活用することで、本部の投資負担や管理コストを低減する
・社員の自己実現の場として独立という選択肢を提供する
・人生をかけた独立者に本気で店舗を経営してもらうことで、店舗競争力を高める
といった効果を狙っているものと考えられます。
同社のフランチャイズ展開のあり方は、まさに主たる目的を「店舗展開」ではなく「経営基盤の強化」においた例といえるのではないでしょうか。
事例②溶接体験テーマパークの事例
溶接のテーマパーク「アイアンプラネット」を手掛ける長田(おさだ)工業所の事例です。
長田工業所が展開する「溶接のテーマパーク アイアンプラネット」のフランチャイズ2号店が、栃木県栃木市にオープンする。
アイアンプラネットは、2014年から福井県坂井市の長田工業所が自社の溶接加工工場を一般向けに開放し、溶接や金属加工を体験する場として提供してきたサービスで、自社PRや地域活性を狙いとする。今回発表したのは、そのフランチャイズ展開による2号店、栃木県栃木市の八興製作所の「溶接のテーマパーク アイアンプラネット ベースオブ栃木」。2021年4月11日のプレオープンに続いて、同年4月21日に正式オープンする予定だ。
アイアンプラネットは小学校3年生以上の子ども(高校生まで保護者の同伴が必須)から大人まで楽しめる施設になっており、さまざまなワークショップやイベントを通じて溶接による工作を本物の職人から直に教えてもらえる。レンタル製作スペースとしても利用可能だ。アイアンプラネット ベースオブ栃木では、溶接によるスツールやシェルフ、ペン立てなどの製作体験を幾つか提供予定だ。体験時間は1~3時間で、料金は2750~1万1000円となる見込み。
出典
2021/04/15 fabcross 鉄工所が展開する溶接体験テーマパークが栃木県内にオープン、今後も他地域へ展開
同社は、人手不足やブランディングに悩む中小零細鉄工所を対象に、溶接体験テーマパーク事業を活用した経営革新支援、具体的には、中小零細鉄工所が有する技術をPRすることに加え、地域活性化を図ることを目的としたFC事業の展開を行っています。
「溶接体験テーマパーク事業」という専門性の高い事業であり、店舗展開の余地は通常のビジネスと比べると限られる印象です。そのため、同社の取り組みは、店舗展開を目的としたフランチャイズとは考えにくいでしょう。
同社の狙いは、自社が構築した「溶接体験テーマパーク事業を活用した経営革新」のノウハウをフランチャイズ事業として他社に展開することで、従来とは異なる収入の柱をつくり、経営基盤を強化することにあるのではないかと考えます。
このような店舗展開余地の少ない事業は、スピーディーな店舗展開を主たる目的とする従来型フランチャイズの常識では、「フランチャイズ展開の意味がない」と考えられていました。しかし、環境変化の速度が速まり、不確実性が増した現代においては、「経営基盤の強化」を目的として小規模にフランチャイズ展開をする意味は十二分にあるのです。
>時代とともに変化するフランチャイズシステム導入の目的を詳しく知りたい方はこちら
まとめ
以上、「経営基盤を強化するためのフランチャイズ展開のあり方」をご紹介しました。
経営環境の変化とともに、フランチャイズ展開のあり方も変化し続けています。
これからフランチャイズ展開を始めて成功するためには、最新動向にアンテナを張り、フランチャイズ化の目的やビジョンに応じて、フランチャイズシステムを柔軟に取り入れることがポイントとなるのではないでしょうか。