2020年版中小企業白書によると、日本の開業率は、2000年代に入り緩やかに上昇してきたものの直近2018年には4.4%へ低下したそうです。
しかし業種別開業率を見ると「宿泊業、飲食サービス業」「情報通信業」「生活関連サービス業」は全業種平均を上回り、約8%前後の開業率のようです。
このことから、直近の開業率が低下したとはいえ、日本の就業者の中には、独立や起業をしたいと考えている方が、一定数存在していることがうかがえます。
また今回のコロナの影響や働き方改革の進展により、就業者が家族との関係や自身の働き方を見直す機運は確実に高まっており、潜在的な起業ニーズは拡大していると思われます。
このような起業ニーズがある中で、フランチャイズビジネスは比較的リスクが低く、独立・起業のきっかけとしては、潜在的な起業準備者にとって有力な選択肢となる仕組みと言えるでしょう。
今回はフランチャイズ本部の代表格といえる大手CVS本部の新規加盟者募集の傾向を知り、中小フランチャイズ本部として、新規個人加盟者を獲得するために取り組めること、について考えていきたいと思います。
なお、加盟店募集の基本的な流れについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
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(1)個人加盟者獲得における大手CVS本部の傾向
現状では、大手CVS各社においても、新規の個人加盟者を獲得するのは難しくなってきています。
加盟候補者不足は大手も中小も同様ですが、大手であるが故の弱点があるからです。
具体的には、
・出店重点地域は首都圏中心である
・店舗開発を担当するリクルーターと実際に個店を指導するSVが違う
・確立されたビジネスモデルがあるため商売に工夫の余地が無い
等により、個人加盟者から敬遠されているようです。
また大手CVS各社としても、日本中のどこでも加盟者を増やそうとしている訳ではありません。
企業全体の経済合理性を優先し、目標とする1日の平均売上高を達成できる加盟店を重点的に開拓しようとしています。
そのため、人口密度が高く、平均売上高の高い首都圏において、既に複数店舗を経営する加盟者の店舗数をさらに増やすことが、加盟店募集では優先されています。
それ以外のエリアや加盟候補者へは熱心に働きかけていない状況もあるようで、今後もこの傾向は変わらないことでしょう。
このように経済合理性を優先する大手CVS本部の傾向を踏まえ、中小フランチャイズ本部が取るべき方向性は、大手と異なるマーケット・戦い方を模索することと思われます。
大手のやることが正しいとも限らず、競合同士の消耗戦にあえて飛び込む必要もなく、小回りが利く中小ならではの戦い方を考えましょう。
(2)起業希望者の現況から読み解く新規 個人加盟者獲得のポイント
では大手とは違う中小フランチャイズ本部の戦い方を考える上で、対象となる潜在的な起業準備者や起業希望者の動向を、2019年版中小企業白書から見てみましょう。
①起業の動機づけ 多い順
- 経営の勉強会・セミナーへの参加
- ビジネスプランの作成
- 起業家の講演会・交流会への参加
- 職場体験・インターンシップ
②求めている事業志向 多い順
- 安定成長型
- 事業継続型
- 急成長型
③起業に伴い不安に感じること 多い順
- 事業の専門知識・スキル
- 実務経験
- 財務・税務・法務知識
- 資金調達
このように潜在的な起業準備者や起業希望者は、起業を希望する気持ちがありながら、安定的に商売を続けられることを求め、しかし事業の経験やスキルに不安を感じていることがうかがえます。
さらに以下のような
- 起業準備者や起業希望者が求めている事業志向で最も多いのは、安定成長型
- 希望する業種業態も「各種サービス業」「飲食業・小売業」「教育・学習支援事業」が上位
といった起業準備者の意向から、成功しているビジネスモデルを展開する中小FCに対するニーズは高いことが読み取れます。
これらのことから、中小フランチャイズ本部が新規 個人加盟者を獲得するポイントは、起業準備者や起業希望者が持つ「事業の経験やスキルの不安」を解消することと言えます。
具体的には、動機付けという点では「経営の勉強会・セミナーへの参加」「ビジネスプランの作成 」を自社で開催してもよいでしょう。
実際に、こういった経営全般の勉強会やビジネスプランの作成といった「起業塾」を開催することで、同業に勤務する人の中から潜在的な自社の加盟希望者を掘り起こそうとしているフランチャイズ本部もあります。
また、より直接的に起業準備者の「事業の専門知識・スキル」「実務経験」といった不安を解消するため、本格的なフランチャイズ加盟の前段階として数年間自社に在籍させ、「のれん分け」という形で独立を支援する企業もあります。
そういった企業は、入社してから一人前になるまでの、スキルのトレーニングメニューや期間、加盟金やロイヤリティ等の独立支援制度を詳しくHPに載せています。
まとめ
直近の開業率が低下したとはいえ、潜在的に独立・起業を視野に入れている方々は多く存在します。
しかも中小フランチャイズ本部が提供する事業モデルは、これらの起業準備者がイメージしやすい事業が多いため、新規加盟への需要はまだまだあるでしょう。
独立・起業準備者から加盟候補者へステージを上げるためには、先ずは起業準備者の立場に立ち、これらの方々の不安を解消することです。
前述のような中小フランチャイズ本部独自のアプローチの仕方が、新規の個人加盟者を獲得する上で重要と言えます。
フランチャイズ本部は、起業・労働市場において、新たな起業家を輩出する重要な役割を期待されている存在です。
その経営の担い手を育成していくことが、フランチャイズ本部の社会貢献、社会的意義と考えて見れば、新規個人加盟者へのアプローチ手法も見えてくるのではないでしょうか。
なお、加盟店募集に際してどのような情報を発信するかを詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。