「のれん分け」は日本では古くから行われており、優秀な社員の独立を支援する役割を果たしてきました。
「のれん分け」には、フランチャイズ化とは異なった優れた点も多いため採用する企業も増えてきています。
今回は既にフランチャイズ展開している企業が、「のれん分け制度」を導入するメリットについて触れていきます。
なお、フランチャイズ本部つくりや成功のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
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優秀な社員のグループ内での活躍 人材育成会社としての成長
店舗ビジネスにおいて他社との差別化は欠かせません。
しかし、唯一無二の商品やサービスも直ぐに模倣され、同質化してしまい、差別化効果も薄れていきます。
そのため差別化の要素が「商品やサービス自体」から「商品・サービスを提供する働き手の在り方」に移り変わってきています。
接客や心配りのある快適な空間を提供する店舗ビジネスのエンタメ化とも言えます。
特に美容院や整体院などは個人の施術スキルに加え、個人のコミュニケーションスキルにも大きく影響を受けます。
これら「施術スキル」+「コミュニケーションスキル」を持ち合わせた優秀な社員が退職して社外へ流出してしまうと、たちまち競争力を失う事態になり兼ねません。
この人材流出を防ぐ手法として「のれん分け制度」が効果的です。
同じブランドを使って優秀な社員が経営者として独立することで、優秀な社員のグループ内での囲い込みと、社員自身の収入アップや顧客基盤の維持が図れるのです。
独立した社員は経営者としての自覚を持つことで、雇用社員とは違う経営者としての意識が醸成され、店舗運営の質も自ずと向上する事例も多くあります。結果としてグループとしての競争力は維持されるどころか向上することも期待できるのです。
働く場としての魅力
今の時代の店舗ビジネスの最大の課題は慢性的な人材不足です。
マーケット競争の前に人材獲得競争に打ち勝たなければなりません。
理由は、給与水準・キャリアアップ・労働集約型産業による生産性の低さなど様々です。
「のれん分け制度」はこれらの課題を克服することが可能です。
経営者となれば店舗数を拡大することでキャリアアップや収入アップは可能です。
人を雇用することで経営者自身の労働時間を抑制することも可能です。
「のれん分け制度」が整っていることを積極的に社内外に発信し続けることで、激化する人材獲得競争でも優位に立てるのではないでしょうか。
既存社員のモチベーションアップや定着化にも繋がるでしょう。
リスク軽減と店舗数拡大のスピード
自社のブランド力を向上させるには店舗数を拡大させることが必要です。
しかし店舗数の拡大は経営者のマネジメント範囲が拡大し、目が行き届かない事態も招きます。
大手企業は多くの管理職をエリア毎に設置して対応しますが、小中規模の企業が直ぐに真似できるものでもありません。
その点、グループ内で経営者を育成することでマネジメントリスクを分散でき、出店意欲のある優秀な経営者が育てば店舗数の拡大も見込めます
独立しようとする経営者は総じて出店意欲は高いものでしょう。
マネジメントリスクを分散しながら、出店スピードが上がりブランド価値も高められるメリットは、直営店のみで展開する企業よりアクティブに成長できると言えます。
身軽経営の実現
昨今ではマーケット環境の変化スピードが格段に上がっています。
テクノロジーの進化もありますが、環境問題、災害、パンデミック、働き方や生き方の見直しなど、経営者の想像力だけでは追いつかない時代です。
これらの変化を先取りして対応することは不可能です。
変化に対して機敏に対応する術が必要となります。
機敏に対応するには経営をより身軽にしておく必要があります。
その点店舗ビジネスは店舗設備や家賃など固定費の負担が大きいビジネスです。
コロナ禍において固定費の重さは、大きなリスクであることを痛いほど思い知らされました。
「のれん分け制度」はこれらの固定費リスクを分散することが可能です。
出店による先行投資や家賃負担は其々の経営者が責任を持ちます。
結果的に会社は、マーケット変化へどう対応していくかの経営判断に注力できるようになります。
「身軽経営」はリスク分散と環境変化への対応スピードを高める点において、どの企業も意識しておくべき視点であると言えます。
既にフランチャイズチェーン展開している本部の「のれん分け制度」の活用
「のれん分け制度」のメリットを理解した上で、次に既にフランチャイズチェーン展開している本部がどう活用していくかですが、結論は「のれん分け制度」と「フランチャイズ制度」のハイブリット展開です。
のれん分け制度 :自社社員の独立を支援
フランチャイズ制度 :第三者の独立を支援
従来のフランチャイズ展開では直営店がモデル店舗、フラグシップ店舗の位置付けです。
これは地域の加盟店の拠り所、実践研修店舗、オペレーションの見本となる店舗です。
この位置付けを「のれん分け制度」の店舗に担ってもらうのです。
自社社員が独立した店舗は第三者加盟より、理念の理解度もオペレーションレベルも高い次元にあるはずです。
定期的に発生する研修、新サービスのオペレーション習得の場として、研修トレーナーになってもらえます。
新サービス導入の実験店舗としても活用できます。
独立社員(のれん分け制度)の経済的なメリットとして、研修で活用する際は、業務委託して報酬も準備します。
またグループ内の位置付けは、「のれん分け制度」の店舗=ハイスペック店舗として、「フランチャイズ店舗」よりもロイヤリティを抑えて、加盟店利益が比較的高いなど、格差をつけることで独自の組織形態も確立できます。
大手フランチャイズチェーン本部にも、フランチャイズ契約には複数の形態が存在します。
出資額に応じたAタイプ・Bタイプ・Cタイプに分けて、ロイヤリティ率も大きく異なります。
フランチャイズチェーンやのれん分けの契約書は、本部と加盟店双方の合意で結ばれるものですので、全加盟者が一律で同じ契約書である必要もないのです。
まとめ
「のれん分け」は日本では古くから活用されてきた制度ですが、時代の変化に伴い、古くて新しい制度となりました。
ブランド価値を高めて会社を成長させる目標を持ちながらも、人材確保・資金調達・消費者意識の変化など、柔軟に対応しなければならない時代です。
これらの相反する経営判断をより迅速に行うために、「のれん分け」の制度は、既存のフランチャイズチェーン本部にとっても、これから本部を構築しようとする企業にとっても、活用する価値がある制度ではないでしょうか。