中小小売商業振興法が改正されたと聞きましたが、本部として何か対応しなければならないことはあるのでしょうか。
これは、先日弊社にFC本部立ち上げのご相談で訪れたラーメン店チェーンを営む経営者からいただいたご相談です。
フランチャイズを規制する法律に、「中小小売商業振興法」があります。中小小売商業振興法はフランチャイズを直接的に規制することを目的とした法律ではありませんが、フランチャイズは同法に定められた「特定連鎖化事業」に該当するため、同法の対象となる小売業・飲食業のFC本部は、中小小売商業振興法で定められた義務を果たさなければなりません。
なお、中小小売商業振興法とフランチャイズとの関連性について詳しく知りたい方は、こちらのコラムも併せて参照ください。
この中小小売商業振興法が2021年4月に改正され、2022年4月に施行されることが決まりました。
今回の改正は、FC本部と加盟者間のトラブル増加を踏まえもので、FC本部にとっては非常に厳しい改正となっています。
そこで、今回は中小小売商業振興法改正に伴いFC本部が対応しなければならないことについて触れていきたいと思います。
1.中小小売商業振興法の改正内容
2021年4月1日付で、経済産業省が中小小売商業振興法施行規則の一部を改正する省令を公布しました。
中小小売商業振興法では、以前からFC本部に対して、加盟希望者との契約締結前に、同法で定められた事前開示事項を書面で交付するとともに、その記載事項について加盟希望者に説明する義務を課していました。今回の改正では、その事前開示事項の中に以下の内容が加えられることとなりました。
七 加盟者の店舗のうち、立地条件が類似するものの直近の三事業年度の収支に関する事項 イ 当該特定連鎖化事業を行う者が把握している加盟者の店舗に係る次に掲げる項目に区分して表示した各事業年度における金額((6)にあっては、項目及び当該項目ごとの金額) ロ 立地条件が類似すると判断した根拠 |
FC本部が当該情報の事前開示を行わなかった場合、主務大臣は、同法に基づく勧告を行うことができ、その勧告に従わない場合には社名等を公表される可能性もあります。
そのため、同法の対象となる小売業・飲食業のFC本部は、上記事項を法定開示書面に掲載し、加盟希望者に事前開示・説明することが必須となります。
2.中小小売商業振興法の改正によってFC本部に対応が求められること
それでは、FC本部としては具体的にどのような対応をしていく必要があるのでしょうか。
具体的なポイントを確認してみましょう。
(1)本部が開示する必要がある情報を明確化する
中小小売商業振興法の改正により、本部が開示義務を負う情報は、本部が「把握している」加盟店の収支に関する情報となります。記載されている項目すべてについての開示義務を負うわけではありません。
そのため、まずは本部が現時点で把握している情報を整理する必要があります。
一般的な本部であれば、「(1)売上高」や「(3)商号使用料、経営指導料その他の特定連鎖化事業を行う者が加盟者から定期的に徴収する金銭」は把握しているものと思います。
一方、「(4)人件費」や「(5)販売費及び一般管理費」は、把握していない本部が大半なのではないでしょうか。
これらの現状分析を行い、加盟希望者に開示すべき情報を明確化することが法改正へのスタートとなります。
(2)立地条件の類似性を判断する根拠を明確化する
同法では、立地条件の類似性を判断する根拠の考え方については、FC本部に委ねられています。したがって「立地条件が類似している」と判断する根拠の考え方について、予め検討しておく必要があります。
ただし、同法では、立地条件の分析方法や具体的な数値まで開示することは求められていませんので、主要な判断ポイントを示す程度で問題ないものと考えられます。
JFAが公表している法定開示書面作成ガイドラインでは、判断要素の例として、以下の項目をあげています。
・周辺の就業人口、世帯人口
・周辺の交通量
・公共交通機関等の施設の有無
・営業時間
・立地区分(幹線道路沿い・街中・住宅街立地・施設内立地・特殊立地等)
・契約形態
・競争環境
・その他業態固有の要素
これらの中からいくつかを選定し、立地条件の類似性を判断する根拠とすればよいでしょう。
3.中小小売商業振興法の改正に対応にあたり懸念されること
まだ加盟店数が限られるアーリーステージの本部にとって悩ましい問題が、情報開示した店舗を特定されるリスクでしょう。
極端な話、加盟店が1店舗しか存在しない場合、当該加盟店舗の収支実績を開示する必要があるものと考えられますが、その行為はそのまま加盟者の秘密情報の流出につながってしまいます。
この点について、前述の法定開示書面作成ガイドラインには、「具体的にどの店舗情報であるか特定されないよう工夫しましょう。」と記載される程度にとどまっており、加盟者の秘密情報を守るための対応は本部に委ねられているのが実情です。
この点は、本部にとって悩ましい問題となることが予想されます。
まとめ
以上、今回は中小小売商業振興法改正に伴いFC本部が対応しなければならないことをご紹介しました。
法律である以上、中小小売商業振興法の対象となる小売業・飲食業のFC本部は本改正に対応しなければなりませんが、前述の通り、対応することで別の問題が生じることも懸念されます。
本部としては、自社の状況から考えた各選択肢のメリット、デメリットを踏まえ、自社にとって最適な対応方針を検討することが求められるのではないでしょうか。
なお、フランチャイズ本部の立ち上げ方や成功のポイントについてついて詳しく知りたいかたはこちらのコラムをご覧ください。