「今後フランチャイズ展開を進めていこうと考えていますがトラブルが生じることが心配です。トラブルを回避するためにどのような点に注意すべきですか?」
これは、弊社にフランチャイズ本部構築のご相談で訪れたパーソナルトレーニングチェーンを営む経営者からいただいたご質問です。
店舗ビジネスを営む企業が多店舗展開の推進や身軽経営の実現を目指すうえで、フランチャイズシステムの活用は有効な選択肢のひとつです。
しかし、フランチャイズ本部と、多様な考えを持つ加盟者との共同事業となるフランチャイズシステムでは、フランチャイズ本部と加盟者間でトラブルが生じることも少なくありません。
このトラブルリスクを懸念して、フランチャイズ展開に踏み出せない経営者も多いのではないでしょうか。
たしかに、フランチャイズ展開する企業の中には、本部と加盟者の間でトラブルが頻発している企業もあります。
しかし、多くの場合、トラブルを防止するためのポイントがおさえられていないために、本来であれば発生を防げた問題がトラブルになってしまっているのです。
裏を返せば、フランチャイズ本部として、トラブルを防止するためのポイントをしっかりとおさえておけば、トラブルを回避することができるということでもあります。
そこで、本記事では、フランチャイズ展開においてトラブルが発生する原因から、その防止策までを解説します。
なお、フランチャイズ本部構築の進め方やポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
1.フランチャイズ展開においてトラブルが発生する原因
フランチャイズ展開においてトラブルを防止するためのポイントについて考えるにあたり、その前提として、フランチャイズ展開において、フランチャイズ本部と加盟者との間にトラブルが発生する原因を知る必要があります。
そこで、フランチャイズ展開でトラブルが発生する原因となりがちな4つのポイントをご紹介します。
①フランチャイズ本部と加盟者間で理念や方針を共有できていない
フランチャイズ展開においてトラブルが発生する原因の1つ目は、フランチャイズ本部と加盟者間で理念や方針を共有できていないことです。
フランチャイズチェーンは、フランチャイズ本部と、多様な考えを持つ加盟者の共同事業です。フランチャイズ本部と加盟者はそれぞれ独立した事業者ではありますが、共同事業である以上、理念や方針が共有できていることが前提条件となります。
仮に、フランチャイズ本部と加盟者間で理念や方針の共有ができていなければ、フランチャイズ本部と加盟者の関係は、「フランチャイズ事業が儲かるかどうか」だけの関係性となってしまいます。
これではフランチャイズ事業が赤字になったときに、トラブルになることは避けられません。
しかし、どのような事業であっても、加盟者が100%儲かるということはありえません。
そのため、フランチャイズ本部と加盟者で理念や方針を共有できていなければ、いつかトラブルが発生することになるのです。
②フランチャイズ本部が提示した売上予測値と実績に大きな乖離がある
フランチャイズ展開においてトラブルが発生する原因の2つ目は、フランチャイズ本部が提示した売上予測値と実績に大きな乖離が生じてしまうことです。
加盟者が儲かっているかぎり、フランチャイズ本部と加盟者間にトラブルが生じることはほとんどありません。トラブルが生じる前提には、まず間違いなく「加盟店が儲かっていない」という事象があるのです。
そして、フランチャイズ本部が加盟者に対して売上や収益の予測値を提示していて、その予測値と加盟者の実績に大きな乖離が生じている場合、加盟者から見れば本部の責任を追及しやすくなりますので、大きなトラブルに発展する可能性が高くなります。
③フランチャイズ本部から加盟者に対して十分な質と量の経営指導がなされていない
フランチャイズ展開においてトラブルが発生する原因の3つ目は、フランチャイズ本部から加盟者に対して十分な質と量の経営指導がなされていないことです。
前述の通り、フランチャイズ本部と加盟者のトラブルは、加盟者の利益が出ていないときに発生します。
しかし、加盟者は利益が出ていないだけでは本部の責任を追及することができません。
そこで、利益が出ていない加盟者は本部の責任を追及できるポイントを探します。
その際によくポイントとなるのが「経営指導の質と量」と、次にご紹介する「ノウハウ提供の有無」となるのです。
なので、フランチャイズ本部から加盟者に対して経営指導がまったくなされていない場合や、経営指導がなされていても形だけになっている等の場合に、フランチャイズ本部と加盟者間でトラブルが発生する確率が高くなるのです。
④フランチャイズ本部から加盟者に対してマニュアルが提供されていない
フランチャイズ展開においてトラブルが発生する原因の4つ目は、フランチャイズ本部から加盟者に対してマニュアルが提供されていないケースです。
経営指導のところでもお伝えした通り、加盟者の利益が出ていないときに、加盟者がフランチャイズ本部の責任を追及する際のネタとしてよくあげるのが「ノウハウ提供の有無」です。
ノウハウは形が無いため、フランチャイズ本部から加盟者に対してノウハウが提供されたかどうかは疑義が生じやすいのです。
この際、しっかりとしたマニュアルが提供されていれば、フランチャイズ本部から加盟者に対してノウハウが提供された証拠が残るため、加盟者もフランチャイズ本部の責任を追及しにくくなります。
しかし、フランチャイズ本部から加盟者に対してマニュアルが提供されていない場合、ノウハウが提供されたかどうかが不明瞭になるため、フランチャイズ本部と加盟者間でトラブルが発生する確率が高くなるのです。
2.加盟者とのトラブルを回避するためにフランチャイズ本部がとるべき防止策
フランチャイズ展開においてトラブルが発生する原因を確認したところで、フランチャイズ本部としてトラブルを回避するための防止策について確認していきましょう。
トラブル防止策① 加盟者審査を厳正に行う
フランチャイズ展開におけるトラブル防止策の1つ目は、フランチャイズ本部の理念や経営方針を共有できる加盟者に限ってフランチャイズ加盟を認めることです。
フランチャイズ展開においてトラブルが発生する原因でもお伝えした通り、フランチャイズ本部と加盟者の関係が「フランチャイズ事業が儲かるかどうか」だけであれば、トラブルの発生を防止することはできません。
苦しい環境におかれたとしても、フランチャイズ本部と加盟者が力を合わせて状況の打開に向けて取り組めるよう、フランチャイズ本部の理念や経営方針を心の底から共有できる加盟者であるかどうかを厳正に見極めなければならないのです。
なお、フランチャイズ展開の成否を左右する加盟者審査の考え方について詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
トラブル防止策② 収益予測の開示を避ける
フランチャイズ展開におけるトラブル防止策の2つ目は、フランチャイズ本部から加盟者に対して収益予測値を開示するのを避けることです。
基本的に、フランチャイズ本部は加盟者に対して収益予測を示す義務は負いません。一方、収益予測を示す場合には、相応の責任が求められることになります。
例えば、本部が提示した収益予測値に客観的かつ合理的な根拠がない場合、そのことが原因で加盟者に生じた損害について、本部は責任を取らなければならなくなるリスクもあります。
また、どんなに精緻な収益予測モデルをつくったとしても、予測である以上、必ず実績との間に乖離が生じることはあります。
以上を考えれば、フランチャイズ本部から収益予測を開示することは避け、直営店の実績値や平均値などを示す程度にとどめておいた方がいいでしょう。
トラブル防止策③ 加盟店営業担当者の過剰な営業トークを防止する
フランチャイズ展開におけるトラブル防止策の3つ目は、加盟店営業担当者の過剰な営業トークを防止することです。
仮にフランチャイズ本部から加盟者に対して収益予測値を示さなかったとしても、加盟店営業担当者が加盟者に対して「●●円くらいの売上だったらまず間違いなくいきますよ!」などと伝えていたとすれば、それは実質的に収益予測を提示しているのと同じになってしまいます。
このような事態を防止するためにも、加盟店営業担当者が守るべきポイントをマニュアル化したり、勉強会で教育したりするなど、加盟店営業担当者の過剰な営業トーク防止に取り組むべきでしょう。
トラブル防止策④ しっかりとしたSVシステムを構築する
フランチャイズ展開におけるトラブル防止策の4つ目は、しっかりとしたSVシステムを構築し、加盟者に対して十分な質と量の経営指導を行うことです。
仮に、加盟者の収益状況が赤字であったとしても、本部SVが加盟者の経営に真摯に寄り添い、できる限りのサポートを実施しているのであれば、フランチャイズ本部に対する不信感も多少は払拭することができるはずです。
もちろん、SVのサポートによって加盟店の収益が改善されれば、問題そのものを解消することにもつながります。
フランチャイズ本部と加盟者の関係も、結局は人と人の関係です。フランチャイズ本部と加盟者間の信頼関係を構築・維持・深化させていくためにも、しっかりとしたSV制度を構築しておくべきでしょう。
なお、SVの教育方法やSV制度運用のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
トラブル防止策⑤ 一定品質のマニュアルを整備する
フランチャイズ展開におけるトラブル防止策の5つ目は、一定品質のマニュアルを整備し、加盟店に提供することです。
マニュアルは、加盟店の店舗運営の指針となることはもちろんですが、フランチャイズシステムにおいては、フランチャイズ本部から加盟店に対してノウハウを提供した証拠としての役割も果たします。
仮に、加盟店の収益が赤字で、加盟店から「フランチャイズ本部からノウハウが提供されていないからだ!」などとフランチャイズ本部の責任を追及された場合にも、一定品質のマニュアルが加盟者に渡されているのであれば、何らかのノウハウが提供された証拠が残ることになります。
このように、フランチャイズシステムにおいて、マニュアルは様々な役割を果たすことになります。加盟者とのトラブルを回避したいのであれば、一定品質のマニュアルの整備し、加盟者に提供する必要があるのです。
なお、フランチャイズ展開に必要なマニュアルのつくり方と管理のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
まとめ
以上、フランチャイズ展開においてトラブルが発生する原因から、その防止策までをご紹介しました。
店舗ビジネスを営む企業が多店舗展開の推進や身軽経営の実現を目指すうえで、フランチャイズシステムの活用は有効な手段となります。
たしかに、フランチャイズでは本部と加盟者間でトラブルが起きている事実もありますが、多くの場合、トラブルを防止するためのポイントがおさえられていないために、本来であれば発生を防げた問題がトラブルに発展してしまっているのです。
トラブルを防止するためのポイントをおさえて準備をしていけば、トラブルを予防することは可能です。
ぜひ、本記事の内容を参考に、フランチャイズ本部と加盟者、双方が幸せになるフランチャイズシステムの構築にチャレンジしていただければと思います。