先日、日本フランチャイズチェーン協会が「裁判外紛争手続き(ADR)の業務を対象とした認証」を受ける準備を進めている、との報道がなされました。
今回の同協会の動きは、フランチャイズ契約に伴う本部・加盟店の紛争が増加していることに起因しています。
「裁判外紛争手続き(ADR)認証制度」とは、法務省からこの認証を受けた民間団体が「話し合いによって解決することができる民事上の紛争について、その当事者を仲介し、和解の成立に向けて調整を行う手続き」を行うことができる制度です。
社会全体として一定の仲裁が必要なケースが増えているため、平成19年より施行されています。
今回は制度そのものではなく、今後増えることが予想される裁判外紛争手続き(ADR)等の紛争に備え、フランチャイズ本部が準備しておくべき姿勢ついて確認したいと思います。
なお、フランチャイズ本部構築の進め方や成功のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
コンテンツ
1.裁判外紛争解決手続き(ADR)の目的
裁判外紛争解決手続き(ADR)は、前述のように認証を受けた民間団体が、紛争当事者間の調停や和解の仲介を行うことで、裁判に持ち込まれる前に解決することを目指している制度です。
今回の報道では詳細は明らかになっていませんが、 フランチャイズチェーン協会が認定団体となったとしても、弁護士の関与は必要であり、当然ながら費用は発生します。
誰がどのように費用負担するのか、認証団体が本当に中立を保てるのか等、課題は残されています。
加盟店にとっては、比較的容易に相談ができるようになりますが、フランチャイズ本部にとっては、そこから本格的な紛争へつながる、なんてことが起きないとも言えません。
とはいえ、今回の取り組みにより、フランチャイズ本部と加盟店が長期に渡り紛争を続ける互いのコスト軽減が期待できますので、フランチャイズビジネスの発展のためには、歓迎すべき動きではないでしょうか。
2.トラブル発生時にフランチャイズ本部に求められる「事実の積み上げ」
本部と加盟店の紛争において、裁判外紛争解決手続き(ADR)での解決にしても、裁判による紛争にしても、フランチャイズ本部にとって大切な手続きは「事実の積み上げ」です。
事実が適法なのか違法なのか、客観的に見て社会通念上許されるのか否かです。
事実の積み上げというのは、
フランチャイズ本部が加盟店と日頃からどう接してきたのか、加盟店とのコミュニケーションは取れていたのか、SVはフランチャイズ契約に則ってちゃんと仕事をしたのか、に尽きます。
裁判では互いの弁護士の知恵を使ってテクニカルに争いますが、弁護士が頼るのも最終的には現場で発生していた事実・エビデンスなのです。
そして事実・エビデンスとは、日頃の業務内容や互いの対話の中にあるものです。
3.将来発生しうるトラブルに備えてフランチャイズ本部が考えておくべきこと
まずフランチャイズ本部として意識しておくべきことは、常に第三者に見られているという意識です。
自社の動きが、誰にでもきちんと説明できる姿勢を持つことです。
次に事実の積み上げです。
何時でも、何処でも、誰にでも、正々堂々と自社のビジネス・業務内容について語れることが大事です。
そのためには、日頃の業務、加盟店との対話を記録しておくことが必要となります。
「言った、言わなかった」の議論では問題が解決できなくなるからです。
さらに加盟店との対話も重要です。
対話をすることで、フランチャイズ本部と加盟店との相互理解が進むことはもちろんのこと、対話を通じて様々な気づきを得ることもできます。
この気づきが、フランチャイズ本部のビジネスモデルを磨き込む際や新しい施策のヒントにもなっていきます。
一般的に互いに向き合って対話をすると対立構造になりがちですが、加盟店の声も「口コミ」だと思うと真摯に耳を傾けられるのではないでしょうか。
最近の消費者はSNSでの他の消費者の「口コミ」を信用して、商品やサービスを選んでいます。
今や「口コミ」は、最も重要なマーケティングツールと言えるでしょう。
ここはフランチャイズ本部としても、大事にしたいところです。
4.事実・エビデンスを積み重ねる具体策とは
事実・エビデンスの積み重ねの方法は、業務日報で十分です。
例えば加盟店訪問時には、最低でも以下の内容はその日の内にまとめましょう。
・日付・場所・時間
・対話の登場人物
・議題内容
・同意・反論・意見の詳細
・指導内容・指導方法(手段)、指導履歴、使用した指導ツール
業務報告や業務日報を毎日記載することは、忙しい現場のSVにとっては負荷に感じます。
実際のところ、日々の旅費精算の領収書を溜め込む人も多いのではないでしょうか。
ですからここは、仕組みやテクノロジーでの解決が必要です。
フランチャイズ展開する会社の責任とも言えます。
手間の掛からないような仕組みは会社として準備する必要がありますが、業務日報を作成すること自体の手間は、絶対に省くべきではありません。
なぜなら現場SVの業務日報は、フランチャイズ本部にとっては「ビジネスの種の側面」と「加盟店との紛争のエビデンスの側面」を持つ、大変重要な情報源だからです。
なお、スーパーバイザーの教育方法や制度運用のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
まとめ
現在は、ビジネスモデルが複雑化し、テクノロジーの進化により世の中全体の情報収集能力が高まり、情報格差が縮まってきています。
ですから、お互いが自身の集めた情報・エビデンスをもとに主張し合い、紛争が増えるのは致し方ないことです。
小さな出来事や些細な発言がSNSで炎上するなんてことも、原因は同じことと言えます。
このように、何かと手間ばかりが増えて、本当に世の中が便利になっているのか疑問に感じることもありますが、フランチャイズ本部としては、いつ起こるかわからないが、油断したら必ず起こる「炎上(紛争)」に備え、「常に説明のできる姿勢とエビデンスの準備」は心掛けていただきたいと思います。