フランチャイズ本部にとって加盟者の数は企業の成長力そのものです。
従って加盟者は喉から手が出るほど欲しい存在です。
様々な手段で加盟店開発活動を繰り広げ、積極的な勧誘を続けます。
しかし興味を示した加盟候補者の中には、フランチャイズ・ビジネスに不適格な方も存在します。
例えば、自己資金や資金調達が困難な方、コミュニケーション能力に著しく欠ける方などです。
今回は加盟候補者の適格性判断の重要性について触れていきます。
なお、フランチャイズ本部つくりや成功のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
JFA倫理綱領
JFA倫理綱領とは、日本フランチャイズチェーン協会が、健全なフランチャイズシステムの開発
と普及、本部・加盟者の適正な互恵関係の維持、消費者利益への寄与を目的とした自主規制で
す。
そこには、フランチャイズ本部として実施すべき内容が挙げられ、その3番目に「フランチャイジー(加盟者)の適格性確認」という項目があります。
①経験と実績による裏付け
②正確かつ十分な情報提供
③フランチャイジーの適格性確認
フランチャイザー(本部)は、フランチャイジー(加盟者)を適正に選定するにあたって、能力、性格、資力、意欲などについて、そのフランチャイジーとしての適格性を十分に確認する。
④契約内容の理解と合意
⑤品質保証と信頼性の保持
⑥改良・開発指導援助の継続
⑦関係法規・法令等の遵守
⑧商標・サービスマークの擁護
⑨契約義務の円滑な履行
これは厳密には法的拘束力もなく、JFA会員にのみ適用される自主規制ですが、非加入のフランチャイズ本部も、なぞらえておくべき内容です。
適格性確認から派生した加盟金返還の判例
では、この③のフランチャイジーの適格性判断が問題となった事例とは、どのようなものでしょうか。
結論から言うと、適格性確認義務そのものを本部に課した判例は、未だ存在しません。
しかし、それに関連する内容で、「加盟者有利の判例」があります。
それは「原告(加盟者側)が開業後1ヶ月で廃業を決断した際、加盟金の一部返還を本部に命じた」というものです。
その理由は「加盟金」の要素を2つに分けて解釈されているからです。
つまり加盟金の要素を
①商標・商号・サービスマークの継続的使用の対価を本質とする部分
②商号付与の対価や加盟のための手数料に当たる部分
という2つに分けて判断されたのです。
そのため、上記の①にあたる加盟金の一部が「ロイヤリティの先払い」と言う意味と解釈され、「原告(加盟者)が店舗を開業していた期間を除く未経過分は本部の不当利得」として、加盟金の一部返還の判断が下ったのです。
この判決は本部側にとっては驚きの結果だったでしょう。
入学金・入会金・加盟金など、組織に入る権利を取得する手段として一般的に扱われています。
それが加盟者の自主判断で脱退したとしても返還を求められたのです。
驚きの判断であるものの、しかし本部が学ぶべき本質は、この加盟金返還の判決に至った根拠です。
本部が加盟者に提供したノウハウの価値は、研修とネット環境から得られる情報をまとめたレベルのマニュアルであり、ノウハウの価値はさほど高度とは言えず、経済的価値は限定的と判断されていたのです。
つまるところ、本部のビジネスモデルの程度の低さを糾弾された結果となったのです。
客観的に見ても1ヶ月で離脱の判断をしてしまう加盟者は、何をしても失敗するだろうと見る目が一般的かもしれません。
しかし加盟候補者の適性を判断できなかったことが、本部にとって思い掛けない命取りとなった事例として勉強になったとも言えます。
JFAが倫理綱領の中で明確に「フランチャイジーの適格性確認」を明記している理由はここにあると思います。
中長期のフランチャイズ契約期間に耐えうる能力、性格、意欲を備えた加盟候補者なのか、経営者の資する資金力や資金調達力を持った加盟候補者なのか、しっかりと見極める目が本部に求められているのです。
まとめ
喉から手の出る程欲しい加盟候補者を前にすると、開発担当者は何とか契約にこぎつけるために言葉巧みに勧誘しがちです。
しかしそこには大きな落とし穴があり、将来のトラブルを生み出すきっかけにしかなりません。
フランチャイズ本部に比べ、本部の展開するビジネスに対する情報が、圧倒的に少ない立場の加盟者に対し、本部は「適切に、正確に、必要な情報を丁寧に説明すること」、それに加えて「資金力や信用力に欠ける加盟候補者を慎重に見極めること」が、本部にとってのリスクヘッジとなることを認識しておきたいところです。