近年、業務委託契約やフランチャイズ契約などで働く個人事業主が、委託元企業やフランチャイズ本部に対して「労働者としての権利」を主張し、訴訟に発展するケースが増加しています。
個人を対象としたフランチャイズ本部は、加盟者の“労働者性”について注意する必要があるでしょう。
業務委託契約などで働くフリーランサーが「労働者」としての権利を求めて企業と争う場合は、間口の広い労働組合法に基づく場合が多い。だが近年は「労働基準法上の労働者」であると主張し、地位確認や未払い賃金、時間外賃金などを請求する裁判も起きている。
スーパーホテルで支配人・副支配人として業務委託で働いていた2人が2020年5月に訴訟を起こし、東京地裁で口頭弁論が進んでいる。葬祭業のベルコの元代理店従業員側も、民事訴訟を起こしたが一審は従業員側が敗訴した。近日中に札幌高裁の判断が出る見通しだ。
日本の労働法制とは仕組みが違うが、待遇にかかわる労働者性の判断では欧州が先行している。
20年3月、フランス破棄院(最高裁)は、ウーバーテクノロジーズのライドシェア事業で就労する運転手と同社との間に雇用関係があると判断した。英国最高裁も2月、こうした運転手を労働者であると判断。最低賃金や有給休暇が適用されることになり、ウーバー側もこれを受け入れた。出典
2021/04/19 日本経済新聞 朝刊 13ページ
「私は労働者?」2つの焦点、フリーやFC店主と委託企業の争い――労基法でも裁判相次ぐ。
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加盟店が未払い残業代の支払いを求めて本部を提訴。FC加盟店の労働者性が認められるか
仮に、加盟者の労働者性が認められる場合、フランチャイズ本部には、加盟者と団体交渉に応じる義務が生じたり、残業支払い義務が生じたりする恐れがあります。
フランチャイズシステムの根幹にもかかわる内容であるため、フランチャイズ本部としては十分に注意しておく必要があるのです。
加盟者の労働者性が認められるかどうかは、契約の名目ではなく、実態で判断されます。その判断要素として、最高裁は次の6つの要素を提示しています。
①加盟者が事業を運営する上で不可欠に組み入れられているか
→加盟者が加盟店業務に従事することが必須の場合、労働者性が高まることになります。
②フランチャイズ本部が一方的に契約内容を決めるか
→フランチャイズ契約書は、基本的に本部が一方的に定めるものであるため、労働者性が高まることになります。
③加盟者の報酬には労働の対価としての性質があるか
→加盟者の報酬が労務提供に対する対価としての特性(例えば、労働時間に対して報酬が支払われるなど)がある場合には労働者性が高まることになります。
④加盟者はフランチャイズ本部からの業務依頼を断れるか
→フランチャイズ本部からの業務依頼を加盟者が断ることができない場合、労働者性が高まることになります。
⑤フランチャイズ本部による指揮命令や働く場所の制限はあるか
→加盟者がフランチャイズ本部の指示に従わなければならなかったり、勤務場所を指定されるような場合は、労働者性が高まることになります。
⑥加盟者に独立事業主としての性質があるか
→加盟者が事業に必要な投資を負担していなかったり、収益リスクを負っていないような場合には労働者性が高まるものと考えられます。
働き方の多様化が進む中、加盟者の労働者性を巡るトラブルは今後増加していくものと考えられます。
個人を加盟対象とするフランチャイズ本部としては、加盟者の労働者性が認められることがないよう、上記6つの視点からフランチャイズシステムの見直しをしておく必要があるでしょう。
なお、フランチャイズ展開の進め方や成功のポイントについて詳しく知りたいかたはこちらのコラムをご覧ください。